この度2024年7月21日(日)から3日間、和歌山県みなべ町にて日本郵船が支援し、NPO法人アースウォッチ・ジャパンが、
日本ウミガメ協議会(松沢慶将会長)の協力を得て主催するボランティア調査に参加する機会を戴きました。その様子を報告させていただきます。
メンバー全員で記念写真
ボランティアはつらいよ
松沢先生からウミガメやみなべ町でのウミガメ保護活動についてレクチャーをいただき、いざ夜は調査支援へ。ふたつの浜の班に分かれてまずはウミガメの上陸を探しに海に出ます。我が千里浜の班は午後8時から翌2時まで1時間交代で約1kmの千里浜の海岸をひたすらパトロールします。満月の美しい海岸をカメの足跡を探して歩きます。サウナのように暑い夜、柔らかい砂に足をとられながら歩きます。美しい海を楽しむ余裕はなく、とにかくつらいです。初日別の浜「岩代浜」の班が一頭に発信機をつけることに成功しました。我が千里浜班は上陸痕を見つけました。しかし上陸はしたけれど産卵はせず帰ったようです。電車や車のライトに怯えたのではないかとの推測です。デリケートなのですね。2日目には岩代浜で新しい一頭に発信機をとりつけることができました。この個体は、初日に千里浜で産まずに戻った個体かもしれないとのことでした。
月の美しい夜の海岸
アカウミガメのお母さんはつらいよ
ここで先生から学んだアカウミガメさんについてご紹介します。
アカウミガメ(Caretta caretta) 絶滅危惧種で、特に近年激減中。雑食で主に底性生物(貝類・甲殻類)を好む肉食系(アオウミガメは海藻・海草など草食系)。えらがなく肺呼吸で2時間、水深で200mくらいまで潜れる。寿命は推定70年~80年。東シナ海では底引き網漁の増加で餌が減り、やむなく餌の乏しい大洋をさまよう個体も多いとか。天敵はシャチ・サメ。産卵地は、北太平洋では日本と済州島だが、済州島は2007年以降上陸すら確認されていない。フロリダでは海洋プラスチックごみがウミガメの93%から発見されている。しかし大半は消化されず体外に排出される。強力な地磁気コンパスを持ち、太陽位置も見ながらかなり正確に航海できると推測される。
ウミガメの性は卵の時の温度で決まるそうです。砂の温度が29°以下ではオスが生まれ、30°以上ではメスが生まれます。地球温暖化がすすむとまずメスばかりになり、更に温度33°で卵が死滅します。メスは卵を準備して、交尾できてはじめて排卵できます。オスに出会えず、大阪湾内を右往左往していると推測される個体のGPS航跡図をみせてもらいました。もう既にオスの減少がはじまっているのかもしれませんね。最近は海象の激甚化で、高潮・高波で卵が流されるケースも多いそうです。高波が来ない目印が砂浜の植生のライン。母ガメはここまで必至に砂丘を登ろうとします。その激しい息遣いが耳に残りました。
ウミガメは平均すると40歳くらいで性成熟してオトナになり繁殖できるそうです。現在の温暖化の影響も40年後に顕著になります。非常にデリケートな生態であることに驚きました。
これだけでなく、人工物(例えば漁港整備)が砂浜を奪う、光害の問題(孵化した仔ガメは光の方向を海と認識。電車・車・町の光を海と錯覚し、海と逆の方向に進んで死んでしまう。母ガメは光が嫌いで上陸できないなど)、その他漁網に絡まり溺死してしまう などなど現代は試練・困難に満ちています。
ウミガメは海の栄養を陸へ運ぶ重要な働きもあるそうです。現実的な話で孵化できる卵は半分程度だとしても、卵の中で使った老廃物と孵化できなかった卵を合わせて、全体の約2/3は陸の生物の栄養となります。砂浜は貧栄養の環境。カメがこの植生を栄養で支え、植物が砂浜を維持するのに大きな役割を持っているそうです。砂浜の安定は、浜の維持でも生態系の健全の上でも非常に重要との話でした。生態系の維持とは、厳しい現実でもあるのですね。そんなこんなで、ここみなべ町でさえもウミガメの上陸・産卵は激減しているとのことでした。
アカウミガメのるなちゃん
松沢先生によるレクチャー アカウミガメ発信機の位置情報
ミツバチさんもつらいよ
一方でみなべ町では、「みなべ・田辺の梅システム」が世界農業遺産に登録されています。里山の林が、「紀州の備長炭」を生み、梅林が高品質な梅を育み、豊かな水田を有し、海岸の背後の植生や環境を保護しています。健全な農林業が町の基幹産業で、ウミガメを観光資源にしない町作りです。ウミガメの調査研究の支援には、役場の理解・支援も厚く、青年団の支援も活発で、優しく素晴らしい町です。
ところが、今年の梅は近年にない「大不作」とのことでした。かなりの暖冬により、受粉を担うミツバチが不活性化し、受粉が全然すすまなかったとのことです。ここにも地球温暖化の影響が心配されるのですね。
こんなご馳走を前にとってもとってもつらいよ!
ところで、このプログラムの食事はとてもとても美味しいです。しかし、これだけのご馳走を前に、そこにビールはなく、約30分でご飯をかっこんで深夜の作業に出発です。みなべ名産の梅干しは食べ放題です!
まなび
ウミガメ調査研究は、社業にも経済にも直接の影響はありません。しかし生意気なようですが、生物学の基礎研究でわかってきたことが、地球環境問題の現実を語ると思います。私たちのまわりには、まだまだ知らないことがあふれています。ウミガメ調査研究を通して、多くの「大切な気づきや学び」があることを改めて痛感しました。このような研究や研究支援はとても大切なことなのだと感じました。生態系とはデリケートで、温度1°2°でも影響はとても大きいことを知りました。一方でウミガメにつける送信機はひとつ4,000㌦だそうです。研究者やボランティアの方々の労力負担や、研究費用負担もとても大きいことを知りました。このみなべのアカウミガメ調査が継続され、研究成果があがり、世界で共有され、また日本郵船グループの支援が続くことを願ってやみません。次年度もぜひ社員の方の参加を望みます。
最終日まとめのセミナーで、みんなで今回のアカウミガメに名前をつけました。今後送信機からのデータはこの名前で追跡と蓄積されます。初日の子は満月の夜にちなんで「るなちゃん」、2日目に発信機をつけた子は「たえちゃん」に決まりました。「たえちゃん」の甲羅にはサメにかじられた跡があったことから、苦しい旅路を耐え、良く産卵に来てくれたこと、産卵後送信機装着作業に耐えてくれたことの思いも込めて。
がんばれ、るなちゃん・たえちゃん・みなべのみなさん!